アトピー性皮膚炎といえば、代表的なアレルギー疾患です。
罹患率は高く、自分や友人がアトピーの人もたくさんいることでしょう。
実のところ、私もかつてアトピーに苦しんでいた時期がありました。
アトピー性皮膚炎は名前の通り皮膚科の病気と思われがちですが、実は眼科においても重要な疾患です。
意外と知られていませんが、アトピー関連の眼合併症は治療が難しい厄介なものが多く、注意が必要です。
・顔のアトピーがひどい
・顔にステロイドを使っている
・ステロイドを内服している
といった方は眼合併症のリスクが高いため、眼科への受診をおすすめします。
■アトピー性角結膜炎・眼瞼炎
皮膚や粘膜はつねに外敵にさらされるため、炎症性の変化が起こりやすい組織です。
花粉症で症状が出るのも、眼や鼻の粘膜ですね。
アトピーでも眼表面(角膜や結膜)や眼の周り(眼瞼)に炎症を起こすことがあります。
基本的には抗アレルギー点眼やステロイド点眼で対応しますが、眼の周りのかゆみが強く出ます。
眼を頻繁にこすったり掻いたり叩いたりすることで、下記のアトピー関連眼疾患のリスクがすべて上がってしまいます。
日中掻かないように気を付けていたとしても、寝ている間に強くこすってしまっている人もいます。
眼の周りのかゆみは、眼合併症の諸悪の根源になるため軽視できません。
しかしステロイド点眼を多用すると、今度はステロイドの副作用(後述)に悩まされるというジレンマを抱えることになります。
それだけアトピーの治療は難しく、だからこそ顔の症状がひどい場合には眼科による管理が重要になってきます。
■円錐角膜
円錐角膜は、本来球面のような角膜が円錐のように突出している状態です。
アトピーがあるからといって必ず円錐角膜になるわけではありませんが、アトピー患者の場合は円錐角膜の罹患率が一般の10倍以上になります。
しかも眼をこすったりして慢性的に物理的刺激を与えることで、円錐角膜の病状が進行します。
眼の周りにアトピーがでることで、円錐角膜を発症したりそれが重症化したりするわけです。
円錐角膜が進行すると視力が下がり(眼鏡やコンタクトレンズをしても、ふつうの人と違って視力はあまり改善しません)
最悪の場合は角膜移植などの手術が必要になります。
また軽度でも円錐角膜がある場合には、レーシック手術も受けられなくなります
■アトピー性白内障
白内障といえば、本来は加齢によって発症する高齢者の病気です。
65~80歳くらいの間に進行してきて、手術を受ける方が多いです。
しかしアトピーの人は、30代・40代であっても白内障が進む人がいます。
これもやはり、眼の周りを掻くことによって水晶体が刺激されるためと言われています。
またステロイドの副作用でも白内障は進行するため、その両方の要素がある場合にはより早く進行してしまいます。
(SlideShare "When conventional therapy fails to treat atopic dermatitis")
しかも、眼の周りをこするアトピー患者は、その物理的刺激により「チン氏帯」と呼ばれる糸状の組織が脆弱だったり断裂していたりすることが多いです。
この場合、白内障手術の難易度がぐっと上がります。
「白内障手術は10分で安全に終わる手術」と世間では認知されていますが、それはあくまでアトピーなどの眼合併症のない(=白内障しか異常がない)眼の場合なのです。
しかもせっかく手術がうまくいき眼内レンズを入れた場合でも、あとから眼の奥にレンズが落下してしまうこともあります。
この場合は眼内レンズ縫着術や眼内レンズ強膜内固定術など、より高度で複雑な再手術をしなければならなくなります。
■アトピー性網膜剥離
(日本眼科医会HPより)
アトピーによる物理的な刺激は、網膜すらも剥がしてしまうことがあります。
発見が早ければ外来でのレーザー治療で済みますが(それでも3割負担で数万円の医療費がかかかります)
遅ければ硝子体手術を受けなければいけません。
剥がれた状態に応じて、即日あるいは近日中の緊急手術になります。
術後も1~2週間は入院の上でうつ伏せし続けなければならず(睡眠中もです!)、術後の視力も網膜がダメージを受けてしまい術前ほどには戻らないことが多いです。
網膜剥離は、眼科領域では数少ない緊急手術が必要な病気です。
■ステロイド使用に伴う眼の合併症
アトピーそれ自身がこれだけ多くの、厄介な眼合併症を引き起こすことがわかりましたね。
しかしこれだけではありません。
ステロイドはアトピー性皮膚炎を含むさまざまな病気に不可欠な治療薬ですが、その副作用も眼に起こることがあります。
長くなるので、別記事でまとめてあります↓
ステロイドは悪魔の薬? 眼科とステロイドの複雑な関係
■アトピーと眼 まとめ
アトピーは皮膚科の病気と思われがちです。
それはもちろんそうなのですが、同時に眼科の病気であることも忘れてはいけません。
とくに顔や眼の周りに症状のあるアトピーや、ステロイドを長期に使用している患者については、とくに眼合併症の危険が高まります。
しかし残念ながら皮膚科医全員がそこまで理解しているわけではありません。
頻度は低いですが、ずっと皮膚科でアトピーの治療を受けているのに、眼に関してはほったらかしにされ(眼科に行くことを促されず)眼合併症が重症化して初めて眼科にやってくる人もいます。
医師は万能の神ではありません。医学の世界はあまりに深くて広いため、すべてを完全に網羅することはできません。
医師は人間ですから、未熟だったり見立てを誤ったりすることもあります。
しかし不利益を被るのは患者です。
患者自身がきちんとアトピーという病気について理解し、行動することでそうした悲劇を回避することができます。
医師がきちんと患者の病状を「全人的」・「全身的」に管理することがもちろん最も重要ですが、患者の側も医師に言われた通りの受け身の姿勢ではなく、自ら主体的に治療に参加するべきです。
アトピーは皮膚科の病気ですが、それと同時に「眼科の病気」でもあるのです。
正しい知識があれば、問題が起きてもきちんと対応することができます。
アトピー性皮膚炎を管理するためのライフハックもまとめてあります↓
アトピー性皮膚炎対策① 実体験と皮膚科医のおすすめ
アトピー性皮膚炎対策② 実体験と皮膚科医のおすすめ
ちなみに、「いい眼科の選び方」も、クローズドなnoteの形で提供しています。
業界の裏事情やカラクリに言及しており、オープンなブログでは書けない内容になっています↓