レーシックと並び、巷でも有名な屈折矯正手術(おもに近視を治療する手術)として、ICLがあります。
ICLはImplantable Collamer Lensの略で、有水晶体眼内レンズ・フェイキックIOLなどとも呼ばれます。
レーシックと引き合いに出されることが多いこの手術、世間でも注目度が高いので記事にしてみました。
まずはじめに、各種の近視矯正・屈折矯正方法の概要を直感的に理解しておく必要があります。
眼鏡は「眼の外」に人工のレンズを配置します。
コンタクトレンズは「眼の表面」に人工のレンズを配置します。
レーシックは「角膜という生まれ持ったレンズを削って加工」します。
ICLは「眼の中」に人工のレンズを配置します。
①人工物を使うのか、生まれ持ったものを加工するのか
②解剖学的に、眼のどこをいじるのか
この2点が注目ポイントです。大まかな感覚を持っておきましょう。
ではICLの特徴をチェックしていきます。
もくじ
■ICLに適しているのはどんな人? ICLの適応
おおよその目安としては
21~45歳程度
-18D程度までの近視
の人に検討される手術です。
※細かい要件はいろいろあるので、実際にICLを施術している眼科を受診し、術前の精密検査を受ける必要があります。
■ICLの手術手順
おおまかにいって
・角膜を3mmほど切開して傷口を作る
・レンズを傷口から挿入する
・虹彩の後ろにレンズを固定する
の3ステップになります。
白内障手術が可能な眼科医であれば、手術の難易度自体はさほど高くありません。
■①角膜を削らない
レーシックと異なり、ICLでは角膜を削りません。
角膜を削ると不正乱視と呼ばれる厄介な光学的問題が生じるので、それを回避できるのは大きなメリットです。
角膜をきれいなまま保てることで、下記のようにコントラスト感度も高いまま保たれます。
■②コントラスト感度が高い
コントラスト感度は「色の濃淡を正確に識別する能力」というざっくりとした理解で結構です。
角膜を削ると不正乱視が出たりハロー・グレアのように光がにじんだりぼやけたりしますが、ICLでは角膜を削らないためにそうした視機能への悪影響が起きにくいです。
眼鏡(「眼の外のレンズ」)をかけても、コンタクトレンズ(「眼の表面のレンズ」)をつけても見え方が落ちにくいように、「眼の中にレンズ」を入れても見え方は落ちにくいのです。
■③近視の戻りが少ない
レーシックでは術後数年で少し近視が戻ってしまう傾向があるとされています。
一方ICLではその「近視の戻り」が少ないとされています。
たとえばこちらの英語論文は、日本の眼科医が発表したスタディの結果です。
ICLとLASIKにおいて、術後3年後の近視の戻り(myopic regression)はICLのほうが統計学的有意に少なかった、と結論付けています。
※後述の個人的見解も読んでください
■④術後ドライアイが少ない
角膜を削るレーシックではフラップを作成するために角膜を切開します。
そのとき角膜の神経が切断されてしまうため、術後ドライアイが生じやすくなります。
一方ICLでは角膜切開の幅が狭い(白内障手術と同等程度)ため、ドライアイの問題が生じにくいとされています。
※後述の個人的見解も読んでください
■⑤術前の状態に戻せる
レーシックでは角膜を削るわけですが、一度削った角膜は元には戻せません。
しかしICLの場合には眼内レンズを「眼の中に乗せているだけ」なので、それを除去すれば術前の状態に戻すことができます。
※後述の個人的見解も読んでください
■⑥強度近視でもICLなら手術可能
レーシックでどれだけ角膜を削るかは、患者の近視の強さによって決まります。
近視が強ければ強いほど角膜をより削らないといけなくなるため、レーシックはおおむね-6.0D程度までの近視にしか適応がありません。
それ以上強い近視を治そうとすると、角膜を削りすぎてペラペラになってしまいます。
しかしICLの場合は眼内に挿入するレンズの度数をきつくすれば済む話なので、レーシックができないほどの強い近視でも手術することができます。
ガイドラインでは-18D程度までの近視に対応しています。
■注意点・ICLの特徴・カタログ文句に対する個人的見解
以上、カタログ文句的なICLの特徴を羅列してみました。
しかしカタログはカタログです。
理想論を述べていたり、必ずしも現実的でないことも書いてあることがあります。
気になるポイントについて、いくつか個人的見解を加えます。
ICLの合併症
いかなる医療行為も、合併症を完全にゼロにすることはできません。
点眼でもコンタクトレンズでも、レーシックでもICLでも、合併症はつきものです。
一般に眼科手術の危険度は、眼の「外」なのか「中」なのかによって二分されます。
眼の「外」の手術は感染症が起きても眼の奥まで到達することは少ないですが、
眼の「中」の手術では眼の奥まで感染症が起きてしまい、重症化が心配です。
その点レーシックは眼の表面(角膜)だけを触りますが、ICLは角膜を貫通して眼の中(厳密には前房内)で操作をします。
合併症(術後眼内炎)の危険度としては、ICLのほうがハイリスクになります。
おおむね、白内障手術と同程度の危険度と思っておけばOKです。
③近視の戻りが少ない は本当か
読者の方から質問を頂いたので、それに答える形で別記事にしてあります↓
ICL術後に近視は戻る? ICL手術を検討中の方からのご相談
術後ドライアイが少ない は本当か
切開創(傷口)の小ささを根拠に、レーシックより術後ドライアイが少ないと宣伝するICLですが、個人的には疑問です。
たしかに古い術式のレーシックであれば角膜フラップをつくるために大きな切開が必要で術後ドライアイが必発でした。
しかしレーザー技術が進歩し現在では「SMILE手術」など傷口が従来よりも飛躍的に小さくなっています。
傷口の大きさが術後ドライアイの原因だったわけですから、レーシックはその問題を克服しつつあります。
術後ドライアイに関しては、新型レーシックであれば理論的にはICLと大差がないように思われます。
⑤術前の状態に戻せる は本当か
これは半分本当で、半分嘘だと個人的には思っています。
たしかに挿入したレンズを「やっぱやーめた」と除去することは可能です。
しかしそのためにつくった切開創(傷口)により、惹起乱視と言われる乱視が眼に残ります。
挿入・除去の過程で角膜内皮(角膜の内側・内腔面)も多少傷みます。
傷口は完全に消えてなくなるわけではなく、瘢痕化して癒着します。
強い圧力がかかると、また傷口が開くこともあります。
あるいは初回の挿入手術の時点で水晶体を損傷したり、なんらかの合併症が起きた場合は当然元には戻せません。
交通事故や眼球外傷で眼に強い圧力がかかり、傷口から眼の内容物が出てきてしまうことも眼科救急をしているとたまにあります。
そういう意味で「完全に術前の状態に戻る」というのはちょっと言い過ぎかなと思います。
超長期の眼への影響は誰にもわからない
白内障手術は患者のほとんどが高齢者です。
術後20-30年問題が起きなければ、まあOKでしょう。
一方ICLは20代にも行います。
まだ比較的新しい手術なので、超長期にわたってICLの影響を観察した人は世界でまだ誰もいません。
術後20年安全なら50年でも安全なのかもしれませんが、そうではないのかもしれません。
人類はその答えをまだ持っていないのです。
■新しい屈折矯正手術 ICL まとめ・所感
このように、ICLには角膜を削らずに済むことで光学的・視覚的に大きな利点がある一方で、やはり弱点や問題点も存在します。
ICLはいわば、眼の中にコンタクトレンズを入れた状態です。
それゆえのメリットも、それゆえのデメリットもあります。
当然、100点満点の手術ではありません。
100点満点であれば、全員がそれを行い他の治療方法(眼鏡やコンタクトレンズやオルソケラトロジーやレーシックなど)はすべて駆逐されるはずですから。
ICLのメリット・デメリットをきちんと理解し、手術を受けるかどうかを検討すべきです。
「適応のある眼」に「適正な手術」がなされれば、満足度が高い手術です。
しかしどちらかを満たさない場合には、術後の不満やトラブルもあるようです。
■ICLの体験談
ホリエモンがレーシックやICLについて本を書いています。
ホリエモンの冠番組でアシスタントをしている女性タレントが実際にICL手術を受けた様子も、赤裸々に書いてあります。
こちらを読んでみるのも、参考になります。
手術を受けた生の声や、ホリエモンならではの考察・分析は、読み応えがあります。
Kindleでしか読めないのが残念ですが…
■いい眼科の選び方
いざICLの手術を受けると決めたとして、どの眼科がいいかが一般の方には分かりませんよね?
そんなときに役に立つnoteがこちらです↓
>>>眼科医がホンネで教える、良い眼科の選び方ガイド!
眼科医だからこそわかる、いい眼科の選別方法を伝授します。
業界の裏事情やカラクリに言及しておりオープンなブログでは書けない内容のため、クローズドなnoteの形で出しました。
※その他、格安眼鏡店やコンタクトレンズを含め、眼科関連のコラムをまとめてあります。
こちらもぜひ参考にしてください↓