ICL術後に近視は戻る? ICL手術を検討中の方からのご相談


今回は読者の方からの質問に答えます。
ICLの手術を検討中の、あつ様からのご相談です。


koala様、初めまして。
クレジットカードや資産運用のお話にも興味があり、こちらのHPをよく拝見させていただいております。
現在ICLの手術を検討中でお話を伺いたくコメントさせていただきました。

•30代男
•20年ほど最強度近視
•常時コンタクトレンズ着用
•レーシックは角膜の厚さ不足と矯正視力の大きさのため手術不可
•-10.0Dほどのコンタクト着用で0.7程の視力。ただし体調によっては1.2程出るときもあり
•コンタクトレンズはネットで買っており(処方箋なし)、眼科へは5年程行っておりません

上記のように現在は-10.0Dのコンタクトレンズで0.7程の視力が出て落ち着いておりますが、それ以前は度数を高くするとはじめは1.5程見えるのですが、また0.7程に落ちていき、またさらに度数を上げると1.5程見え、時間の経過と共にまた0.7…のサイクルを繰り返しており、同様のサイクルをくり返すのであれば、日常生活でさほど困っていないこともあり、半ば諦めて-10.0Dのコンタクトレンズで0.7の視力の生活を送っております。
(なぜか0.7から下がることはありません)

しかしながら、視力の悪い生活をずっと送ってきたため、1.5程度の視力が常時ある生活に憧れます。
そこでお伺いしたいのですが、もしICLの手術を受け、仮に1.5程の視力が出た場合、これまでのように時間が経つと0.7程の視力に戻る可能性は高いのでしょうか?

もちろん、個人差や体質、生活環境などがあり一概に言えない部分も大きいことは重々承知しておりますが、上記の項目から考えられる見解を一般論としてお聞かせ願えればと思います。
お忙しいとこと申し訳ございません。
何卒、宜しくお願い致します。


コメントどうもありがとうございます。
読者の方とやりとりができるのはうれしいですね。

私の専門分野は屈折矯正分野ではありませんが、一人の眼科医として見解を述べたいと思います。

注:もちろん眼の状況は個々人により異なりますし、私の意見が100%正しいとも限りません。
手術を受けるかどうかの判断も含め、最終的には自身の判断でお願いします。

注:文章・説明は一般の方向けに、医学的妥当性よりも分かりやすさ・理解しやすさを重視した表現にしています。

■事前知識①:ICL/フェイキックIOLについて

まずはICLの基本的な概念が分かっていないといけません。
利点・欠点についてもまとめてあるので、まずはこちらを読んでみてください。

近視が治る!? 眼科医の考えるICL/フェイキックIOL:近年流行の「眼内コンタクトレンズ」とは

■事前知識②:ピント調節筋=毛様体筋

それから、以下の議論を理解するためには、ピント調節筋(毛様体筋)の知識も必要です。


(視力ランドHPより)

本来眼は1か所にしかピントが合いませんが、ピント調節筋が「頑張る」(収縮・弛緩する)ことで、近くにも遠くにもピントが合わせることができます。

カメラがお好きな方は、カメラの焦点距離を自分で調節すると思いますが、それに相当する概念です。

■なぜ近視は進むのか


(清澤眼科医院通信 HPより)

一般に近視は、眼がラグビーボールのように伸びることで生じます。

近くの作業ばかりを続けていると、眼も近くが見えるように頑張って順応しようとしますから、眼が伸びていきます

正常の人の眼の直径は24mm程度ですが、近視の人は27~28mm、ひどい人だと30mmを超えてきます。

質問者の方のように視力1.5のコンタクトレンズをつけると、眼はかなり遠くにピントが合った状態になります。

そのコンタクトレンズをつけた状態で近くを見るためには、「ピント調節筋」が頑張らないといけません
遠くに合っているはずのピントを「ピント調節筋が頑張って」手元に合わせているのです。

視力1.5のままでスマホやPCなど近くの作業を続けると、眼は「無理をして近くにピントを合わせ続ける」ことになります。
「ピント調節筋」に負荷がかかり続けているわけです。

※ちなみに、このピント調節筋が加齢でへばった状態、遠くは見えるのに近くは見えない状態、のことを老眼といいます。

通常ヒトの体は、負荷がかかると、それを和らげるような方向に変化しようとします。
靴擦れと同じですね。
始めは靴が合わなくて痛くても、皮膚が固くなることで合わない靴に順応しようとするわけです。

ピント調節筋が楽をするためには、近視(遠くよりも近くにピントが合った状態)になればよいのです。
だからこそ、コンタクトレンズの度数を変えても近視がまた進む、といういたちごっこが続いてきたわけです。
コンタクトレンズの度数アップ⇒ピント調節筋への負担アップ⇒近視進行⇒コンタクトレンズの度数アップ・・・の無限ループです。

ピント調節筋がそんなに無理をしない程度まで近視が進めば(視力0.7)それ以上は進行しないというのも、上のような感覚的理解があれば腑に落ちると思います。

視力1.5の世界は、質問者の方の眼や生活にとっては過矯正なのです。
ピントが遠すぎるために、質問者の方が普段行う手元の作業が、ピント調節筋にとって過度の負担になっているんです。

■ICL術後、近視は戻ってしまうのか (myopic regression)

だとすると、ICLで視力が1.5になっても直感的にはまた近視が進んでしまうように思えます
作業距離などのライフスタイルは変わらないからです。

ICLの記事で私は、ICLがレーシックと比べて近視の戻りが少ない研究結果を示しました

しかし、他の論文からはまた別の知見が得られています。

ICLはたしかに近視化(myopic regression)の比較的少ない術式だが、なかには近視化してしまう人もいる
ICLを受けた人の中で、近視化しやすい人・しにくい人を分析してみると、近視化の度合いは患者の年齢と近視の強さに比例している。

元論文はこちら(英語)
日本語の要約はこちら

近視が強ければ強いほど年齢が高ければ高いほど術後の近視の戻りが大きくなるということです。

相談者の方は-10.0Dと最強度近視のため、近視化リスクが高いと言えます。年齢は若いですが・・・

■コンタクトレンズを眼科医の診察なしに漫然と使用する危険性

それからもう1点、コンタクトレンズの管理に関してです。
度数が変わらないようなので購入自体はネットからで問題ありませんが、5年間受診していないというのは眼科医としては看過できません。

装用時間が長い場合には、とくに角膜内皮が健康かどうかを把握しておくべきです。
「常時コンタクトレンズ着用」と相談文にありますから、要注意です。

角膜内皮はボロボロになって二度と戻らなくなる直前まで、症状が出ないからです。

年に1回程度は、角膜内皮の測定を含めた眼科受診を強く勧めます。

コンタクトレンズの考え方はこちらの記事で詳しく扱っています↓

眼科医がコンタクトレンズ選びを指南!恐ろしい合併症を防ぐためには

■まとめ

結論としては、質問者の方にはICLはあまり向かないように思います。
手術を受ける目的である「常時視力1.5の世界」は、手に入らなさそうだからです。

またコンタクトレンズ管理にも改善の余地がありますね。

・・・ということであつさん、ぜひ参考にしてみてください。
期待にお応えできたか分かりませんが、今後もブログに遊びに来てくださいね。

※読者の方と双方向で情報をシェアしてコミュニケーションできるようになるのが理想です。
今回のように取り上げてほしいトピックがもしもあれば、TwitterやFacebookにメッセージ、あるいはブログにコメントを頂ければ可能な範囲で善処します!


ICL術後に近視は戻る? ICL手術を検討中の方からのご相談」への3件のフィードバック

  1. あつ

    Koala様

    こんにちは。
    お忙しい中、記事でのコメントへのお返事いただきありがとうございました。

    やはり、PCを使ったデスクワークの仕事中心の現在の生活環境ですと、仮にICLを受け、希望の視力が出たとしても時間の経過とともにまた、0.7程度に戻ってしまう可能性が高そうですね。
    (もちろん実際の検査結果などの指標を以ってでないと判断できない部分も大きいかと思いますが)
    実は、ICLを知る数年前にレーシックも検討しておりましたが、角膜の薄さと度の強さから施術適用外とされ、周りがレーシックで「驚くほど見えるようになった」、「コンタクトの手入れも要らず快適になった」といった話を見聞きして蚊帳の外といった感じで落ち込んだりしたこともありました。
    調べていく中で価格は張りますが、日本の厚生労働省より基準が厳しいアメリカのFDAの認可を得たりとか、見え方の質が高いICLという手術に一縷の希望を持ち色々と調べてきたので、Koala様に詳細な記事を執筆いただき、残念な気持ちはありますが、ただ運転免許も普通に更新できますし、コンタクトを着用すれば日常生活に不便はないため、コンタクト着用で見られていることに感謝したいと思います。

    また、現役の眼科医のKoala様に対して、数年眼科に通っていないなどの大変失礼な記載もしてしまい申し訳ありません。
    暗室でレンズ越しに光を当てて診ていただく診察において、眼球に傷はない(角膜は綺麗だったか?)と診断されることが多かったので調子に乗って眼科から足が遠のいておりました。
    Koala様の記事に記載いただきましたように、年に一回は眼科の先生に診てもらうようにし、早速来週の土曜日に通院に行きます。

    お忙しい中、面識もない一読者のためにお時間割いていただき、ありがとうございました。
    眼科のお話のみならず、資産運用、クレジットカードといったファイナンスのお話を今後も楽しみにブログ拝見させていただきます。
    (ちなみに僕はセゾンカードのマイレージプラスのクレジットカードを使用しております。年会費とは別に5000円程度をオプションで支払えば還元率1.5%になります)

    Koala様の在住地方も酷暑の日々かもしれませんが、御身体ご自愛くださいませ。

    返信
    1. Dr. Koala 投稿作成者

      あつ様

      レーシックはおおむね-6.0Dくらいまでが対象になるので、意外と対象者が少ないんですよね。
      強度近視で本当に困っている人ほど手術を受けられないっていうのは、眼科医としても悔しい気持ちになります。

      その点ICLは強度近視でもOKですし、角膜を削らないのでレーシックより見え方の質は優れるんですが…
      あつ様のように、なかなか理想通りには現実はいきませんね。

      >数年眼科に通っていないなどの大変失礼な記載もしてしまい申し訳ありません。
      いえいえ、ネットで嘘を書いても意味がないです。
      本当のことをきちんと書いていただいた方がより適切な答えを用意できるので助かりますよ。

      なお暗室での診察では、基本的に異常は指摘されません。
      角膜に傷がもしあれば、痛みですでに眼科を受診しているからです。
      また角膜内皮細胞の減少も、最終ステージで視力が低下するまでは診察しても分かりません。(だからこそ怖いんですよね…)

      以上の理由から、眼科受診の際はかならず「角膜内皮の測定」ができるクリニックに行くようにしてくださいね!

      >僕はセゾンカードのマイレージプラスのクレジットカードを使用しております
      UAはANA国内線をお得に飛べたりするので、上手にマイル遊びをして使いこなしている人もいますね!
      日系と違って事実上有効期限が無いのもgoodです。
      私はSFCがあるのでANAに集約していますが、いいクレジットカードチョイスだと思います。
      保有カードだけで、その人の資産に関するスタンスや知識がある程度わかるので、おもしろいですよね。

      返信
  2. あつ

    Koala様

    お礼のコメントにお返事いただき、ありがとうございます。
    「角膜内皮の測定」ができる眼科にいくことが必須なんですね。
    角膜内皮細胞は年をとるにつれて少なくなって行き、増えることはない、って話を聞いたことがあるので、是非角膜内皮の測定受診もしたいと思います。

    ユナイテッドのマイルはANAに変えて旅行してます。
    SFC、かっこいいですね。
    一時期取得しようかと思い調べたりしていましたが、あまり飛行機に乗るライフスタイルではないので半ば諦めておりました。
    その辺のお話もまた是非聞かせてください!

    返信

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