格安眼鏡店の功罪 眼科医の考える長所と短所


「安い眼鏡屋さんってどうなの?」というリクエストを頂き、書き起こした記事です。

2000年以前には、眼鏡はなんとなくダサい、そして作るのにずいぶんとお金のかかる高級品でした。
見た目が冴えないのに何万円もする高級品は、気軽に購入できるものではありませんでした。

しかし近年その流れが大きく変わります。
2001年にJINS・Zoffが1号店をオープンし、それから格安眼鏡店は破竹の勢いでシェアを伸ばしました
今となっては主要な駅には必ず店舗があるといっても過言でないくらいに、店舗数は増えました。

(株式会社ジンズHPより)

眼科医として日々外来をしていると、そうした格安眼鏡店で作成した眼鏡を持参してくる患者も目立つようになってきました。
そうするとだんだん、いい点・悪い点が目に付くようになってきます

この記事ではまず現状を把握し、消費者である私たちはどうすればよいのかを考えてみたいと思います。

■格安眼鏡店が現れる前

「街の眼鏡屋さん」が全国にまだたくさんあった時代です。
厳密な視力測定にはそれ相応のスキルが必要で、ある種の職人技の領域でした。
日本製のフレームやレンズも比較的値段が高く、技術料も含めて眼鏡は高価な商品でした。

今の小中学生には信じてもらえませんが、つい最近まで何万円もかかるのが当たり前でした。

■格安眼鏡店の出現 JINSやZoffの台頭

そんな状況を、新規参入のチャンスと捉えた会社がありました。
古いスタイルから脱皮できずにいた眼鏡業界は、黒船の襲来により一気に牙城を崩されることになりました。

どうして何万円もかかっていた眼鏡が、数千円で買えるようになったのでしょうか。

JINSZoffなど、格安眼鏡店がその価格を実現できるのには、さまざまな要因があります。

①企画~製造までを一貫

格安眼鏡店は垂直型の製造を行っています。
委託するとその分コストがかかってしまいます。そうした中間マージンを極力抑えることにより、価格競争力を持たせます。

iPhoneで有名なアップルは垂直統合型のビジネスモデルであると言われています。

また昨今流行りのプライベートブランド(PB)も、同じ原理で割安価格で販売することに成功しています。
イオンのトップバリュや、ローソンのローソンセレクトなどが一例です。

②輸入フレームを活用

高級眼鏡店では通常フレームは日本製です。
とくに福井県鯖江市は有名ですね。
格安ブームからの揺り戻しもあり、鯖江フレームは人気やブランド力があります。

一方格安眼鏡店では、中国製あるいは韓国製を使用しています。
当然価格なりの品質ですから日本製には及びませんが、安価に製造が可能です。
プラスチック製フレームなど素材にも幅があり、デザインや色使いも多様になりました。

③レンズも価格重視の製品を利用

使用しているレンズは、HOYAやニコンなど日本の一流レンズ企業ばかりです。
ただしレンズスペックを見てみると、価格なりのパフォーマンスに抑えられています。
「United ArrowsやSHIPSといったセレクトショップの、アウトレット専用品」みたいな位置付けです。

専門的になるので詳細は割愛しますが、トップクラスのレンズと比較して見え方が若干劣るものを使用しています。(ただし人間がその差を自覚できるかは別問題です)

臨床経験上は、今まで高価なレンズを使っていない人は不満を抱きにくい印象です。
100円の回転寿司しか知らない人は100円で幸せですが、高級寿司を知ってる人は100円では満足できないのと同じでしょうかw

もともと眼疾患があり視機能の余力が乏しい人は「いいものじゃないとだめですね」と言う人も居ます。

④人件費の抑制

街の眼鏡屋さんでは、よく店先に「認定眼鏡士」の表示をしてあるところが多いです。
これは国家資格ではありませんが、眼鏡に関して一定の能力を担保できる民間資格になっています。
この表記があるということは、その眼鏡屋さんの技術がある程度信頼できるということです。

一方で格安眼鏡店ではそういった人件費をなるべく抑制しています。
大学生などのアルバイトが当たり前のように検眼しています。

通常視力検査では「他覚検査」(オートレフ)でおおよその度数の目星をつけます↓

その後「自覚検査」でその値を微調整します。
おなじみのCマーク(ランドルト環)ですね↓

「他覚検査」は器械が自動で測定してくれるため素人でも可能ですが、「自覚検査」はトレーニングが必要です。

格安眼鏡店では 「自覚検査」はせずに「他覚検査」のみで度数を決めることが多く、したがって度数ずれを起こす可能性があります。
昨今器械も性能が上がってきてはいますが、やはり自覚検査とのずれをゼロにすることはできていません。

つまり格安眼鏡店は・・・

■企画~製造~流通の過程を合理化する
■フレーム・レンズなどの品質を「それなり」のレベルに抑える
■検査や人件費を削減する

ことにより、既存の眼鏡屋の仕組みを切り崩しました。
いわば薄利多売のビジネスモデルと言えます。

■格安眼鏡店がもたらしたメリット

格安眼鏡店が増えることで、間違いなく眼鏡はより市民権を得ました
そもそも近視はアジアを中心に激増しているわけですから、潜在的な需要はあったわけです。

安価な価格で、ファッション性も高まり、一人で何本も持っている大学生もたくさんいます。
ファッション誌で特集され、芸能人も眼鏡を着回し、もはやアクセサリーの一種にすらなりつつあります。

材質もチタンやらプラスチックやらさまざまで、デザインやカラーリングも本当に増えました
実際私もいくつか持っていますが、ほどよくラフに扱える(高価すぎるものは、壊したらいやだしもったいなくて使えない性格なんですw)、出張セットに1本忍ばせておいたり、家用だったりスポーツ用だったり、気軽に買うことができ眼鏡への敷居が一気に下がりました

私は現在、-8.5Dの強度近視です。
小中学生のころはどんどん近視が進行していたにもかかわらず、ちょっと見にくくなっても値段の高さに尻込みして親になかなか言い出せませんでした
私が小さかった頃はとくに家計が厳しかったらしく、ほしいものも必要なものも、なかなかすぐにおねだりできる空気ではありませんでした

そんな苦労を今の時代ならしなくてよくなったんだと思うと、それだけでうれしい気持ちになります。

■格安眼鏡店がもたらしたデメリット

逆に格安眼鏡店の生み出した問題点ももちろんあります。
突き詰めると「安かろう 悪かろう」に落ち着くわけですが、外来でもそれにより不利益をこうむった患者さんを診察したことがあります。

ある日若い男性が「片眼が痛い」とやってきました。
片眼性の眼痛・・・いろいろと鑑別疾患はありますが、矯正視力(最良の眼鏡をかけたときの視力)は問題ありません。
前眼部も後眼部も正常に見えます。

はて困ったなと思い、もう一度問診してみると、先日眼鏡をつくったとのこと。

そこでレンズの度数を計測してみると・・・すさまじい過矯正でした。
片眼だけかなり強い度数が入っており、それにより眼精疲労を起こしていたのでした。
レンズの度数がおかしいと、ピント調節を担う毛様筋に負荷がかかり痛みを引き起こすことがあるのです。
「こんな変な度数を入れる眼鏡屋どこだよ!」と思い聞いてみると、某有名格安眼鏡店でした。。

他にも、乱視の軸がずれている・眼鏡のフィッティングがいまいち(顔にきちんとフィットしていない)などの経験をしたことがあります。

販売本数から考えるとトラブル数はともかくトラブル率はそんなに高くないのかもしれませんが、上記の過矯正症例のように専門家から見るとギョッとするようなのに出会うことがたまにあります

■格安眼鏡店に向く人・向かない人

人間何事にも向き不向きがあります。
格安眼鏡店でも同様でしょう。
そこでどういう人が向いているのか、考えてみました。

向く人

[①お金がない人]
身も蓋もありませんが、そりゃそうですよね。大学生ならもっと他にお金を使いたいだろうし、家計が厳しかったらどこかで支出を削らないといけません。
私も小さい頃に近所にJINSがあったら、勇気を出しておねだりできたんだろうなと思います。

[②近視以外に病気のない人]
人間の体には予備能という概念があります。
負荷がかかった時でも、火事場の底力を出せるわけです。

眼でも同じで、緑内障だったり黄斑変性だったりなんらかの病気で視力が落ちている人は底力が出ません。レンズのクオリティが落ちると、如実に見え方に影響が出ることがあります。

しかしただ近視なだけの人は、少々レンズのクオリティが落ちようがへっちゃらです。人間の眼も、「余力」を残してあります。

[③細かい・繊細な作業をしない人]
たとえば脳外科医は非常に繊細な手術をします。ちょっとでも見え方が悪いと、手術のパフォーマンスに影響するかもしれません。
高いQOV(Quolity of Vision)を求める人は、眼鏡もケチるべきではないでしょう。

しかし視力が0.3でも何の不自由もなく、気にせず生活している人もいます。
眼科医にはなかなか理解しにくいのですが「どっちかの眼がだいたい見えとったらええねん」と言う人もいます。
重症糖尿病で、内科医に促されて初めて眼科を受診した方でしたが、すでに片眼は失明していました。それでも本人はとくに困らないのです。

QOVの高くない人は、格安眼鏡でも十分満足が得られると思われます。
高ければいい、という人ばかりではありません。

向かない人

当然、向く人の逆ですね。
眼鏡に十分お金をかけられる人、何らかの眼疾患を抱えている人、「見え方の質」への要求度が高い人は、格安眼鏡店を利用しても幸せになれない可能性が高くなります

■かしこく格安眼鏡店を利用するための提案

ではかしこく格安眼鏡店を利用するためにはどうすればよいでしょうか。

まずは格安眼鏡店の問題点をもう一度整理してみます。

①フレームが安かろう悪かろう
②レンズが安かろう悪かろう
③検眼(≒視力測定)が安かろう悪かろう

という3点になりますね。
この中で③だけは容易に回避することができます。

近所の眼科に行けば、正確な視力測定をしてくれ、眼鏡処方箋を出してくれます
眼鏡処方箋はいわば「眼鏡作成のレシピ」であり、度数や瞳孔間距離など眼鏡作成に必要な情報が記載されています。
アルバイト店員よりも、正確なレシピを作ってくれるはずです。

①フレーム・②レンズの「安かろう悪かろう」を回避しようとすると、高価なフレーム・高価なレンズを購入することになるので、そうなると格安眼鏡店で眼鏡をつくる意味がありませんw
高いとこで買えばいいじゃん、となります笑

したがって格安眼鏡店で眼鏡を作る場合には、眼鏡処方箋を眼科でつくってもらうことでその弱点を1つつぶすことができます

■格安眼鏡店のメリット・デメリット まとめ

格安眼鏡店は眼鏡業界を変えました。
眼鏡はよりお手軽で身近な存在になりました
小さな子供がカラフルで可愛らしい眼鏡をかけてご機嫌でいるのを電車の中なんかで見かけると、いい時代になったなあとうれしい気持ちになります。

JINS・Zoffをはじめとした格安眼鏡店は「安かろう・悪かろう」を甘受できる人にとっては優れた選択肢になります。
私も実際に何本も持っています。
コンタクトレンズと同じく、自腹を切って市場調査したりもしています笑

また格安眼鏡店を利用する際は、お近くの眼科クリニックで検眼してもらうことを眼科医としておすすめします。それにより格安眼鏡店のデメリットを1つ解消することができるからです。

今利用できるリソースをかしこく有効に活用し、よい眼鏡ライフを送ってください!

※参考
近視の場合は、コンタクトレンズを使う方も多いですよね。
コンタクトレンズに関しても、問題点を正しく理解し、正しい商品を選択し、正しい方法で使用するようにしましょう

眼科医がおすすめする、コンタクトレンズの選び方!恐ろしい合併症を防ぐためには

 

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