ステロイドは悪魔の薬? 眼科とステロイドの複雑な関係


■ステロイドは魔法の薬


ステロイドは眼科に限らず、現代の医療で不可欠な治療薬です。

眼科では軽度の結膜炎から重症の視神経炎・原田病などさまざまな病気で、ステロイドを使います
白内障・緑内障・網膜・角膜など手術後の目薬としても必須です。

もちろん眼科だけでなく、内科や耳鼻科などありとあらゆる科で、ステロイドは大変重宝する「魔法の薬」です。

喘息、アトピー、関節リウマチなどの膠原病、腎炎、悪性リンパ腫、潰瘍性大腸炎(安倍総理がかかったことでも有名です)などなど、挙げ始めればキリがないくらいにステロイドは治療で使われます。

それだけ効果があり、医療の現場で活躍している薬なのです。

■ステロイドは悪魔の薬?


一方でステロイドには見逃せない副作用もあります。

投与の方法(内服・注射・局所など)によって多寡はありますが、たとえば
皮膚局所の副作用のほか、糖尿病、胃潰瘍、骨粗鬆症、高血圧など全身疾患を合併することがあります。

ステロイドの量が多い場合には、これらを予防する薬を併用する場合も多いです。

■ステロイドが眼に与える悪影響


上記の全身合併症のほか、眼にもステロイド特有の副作用があります。
点眼薬や眼注射、顔への塗布、内服薬などで、眼に副作用が出ることがあります。

眼の周りに使った場合に関しては、直感的に理解できると思います。
内服の場合は消化管から吸収され、血流に乗って全身に薬が届きます。とうぜん眼にもステロイドが到達するので、眼の合併症のリスクも高まるのです。

今回は二大合併症である白内障緑内障について取り上げます。

◎眼の合併症① ステロイド白内障


有名どころでは白内障があります。
白内障は本来加齢に伴って進行し、60~80歳くらいで手術になる人が多いです。

しわや白髪と同じ加齢による変化なので、誰でもいずれは白内障になります。

しかしステロイド白内障は、若くても起こります。
長期使用例では20代でもみかけます。

ひとたび白内障が進行してしまうと、手術をする以外には治療法がありません
目薬などの保存的な治療で改善することはありません

白内障手術をすると眼内レンズを入れますが、そうするとピント調節の機能が失われます
いわば若くして「老眼」になる、ということです。
老眼を避けるために多焦点眼内レンズが生み出されましたが、それ特有の見え方の問題があるし、価格もかなり高価です。(後日追記)

また高齢者に白内障の手術をして眼内レンズを入れても20~30年は問題ないことが分かっていますが、20代の人に入れて60~70年後に問題がないかは誰にもわかりません。

やっぱり、自然で健康な眼にはかないません

◎眼の合併症② ステロイド緑内障


(日本眼科医会HPより)

恐ろしいのは白内障よりもむしろこちら、ステロイド緑内障
です。
白内障は視力が低下するので、患者は「見えにくくなった」と言って眼科を受診します。
皮膚科医が促さなくても、症状が出てくるから勝手に受診します

しかし緑内障はかなり進行しないと自覚症状が出ないため、眼科を自ら受診するか人間ドックなどで健診を受けていないと、早期では発見できません

しかも緑内障は「不可逆」の病気です。
つまり治療をしても元の状態に戻すことはできず、できることは進行を遅らせることだけです。
一度ダメージを受けた網膜の細胞は、二度と戻ってきません

早期に発見できれば治療も早い段階で手を打てますが、進行してしまっては後の祭り、今の医療技術ではできることはかなり限られてしまいます。

ステロイドで知らない間に緑内障がぐんぐん進み、なんだか見にくくなったと受診する人が、今でもたまにいます。


アトピーがひどくて強いステロイドを眼の周りに塗りたくっている若い男の子が、眼科初診時にすでに失明寸前だったりするんです。
とうぜん片側にだけ塗っているわけはありませんから、失明寸前なのは両眼です。
しかも有効な治療法はなく、徐々に視野障害が進み失明するのをなす術なく見届けるしか眼科医にはできません。

「せめて眼科受診を促してくれていたら」
「せめて眼の合併症を気にして顔だけでもプロトピック(ステロイドを含まないアトピーの塗り薬)を使ってくれていたら」
と眼科医は思うわけです。

■まとめ・眼科医のおすすめ


ステロイドは魔法の薬である一方、悪魔の薬なのかもしれません

ステロイドが引き起こす眼の合併症は重症化することがあります。
目の周りにステロイドを使っている、ステロイドを内服している、ステロイドを長期間使っている、といった場合には、眼科で一度合併症についてチェックしてみることを強く勧めます
またアトピーなどで顔にステロイドを使っている場合は、プロトピックに変更できないかを主治医に打診してみましょう。
首から上はプロトピック!」 と覚えておくとよいです。

ステロイドは効果が大きい反面、副作用も無視できない両刃の剣です。
きちんと使いこなせれば強力な治療ツールになりますが、そうでなければ自分に危険が及びます

もちろん医師がきちんと管理・指導すべきところではありますが、薬を実際に使うのは自分自身です。
医師は完全無欠な存在ではないわけで、自分の身は、まずは自分で守らなければいけません。
副作用で取り返しがつかなくなってしまっては、もう元通りにはならないからです。

 

■関連記事はこちら

 

 

 

Dr.Koalaの執筆活動をサポートしてくださる方はこちらへ↓↓

 

 

 


 

 

コメントを残す