センセーショナルな論文が出ました。
世界各国で取り上げられていますが、皮膚の悪性黒色腫の診断において皮膚科医よりもAIが優れていることを示した研究成果が発表されました。
■悪性黒色腫(メラノーマ)について
悪性黒色腫はいわゆるほくろとの鑑別が難しく、また足の裏など発見しにくい場所に生じることが多いことから、早期発見が難しいとされています。
悪性腫瘍の一種ですから、放置しているとどんどん進展し、最終的には全身に転移し予後が不良になります。
(Melbourne Melanoma Projectより)
この写真、一方はほくろで他方は悪性黒色腫です。見分けがつきますか??
いちおう見分け方のコツやポイントはあるのですが、正確に診断するためには臨床経験が必要です。
そして悪性黒色腫を専門としている皮膚科医ですら、100%の診断は困難です。
■今回発表された研究の内容について
今回の研究の要点をまとめてみました。
目的・方法
今回の研究では「皮膚病変が、良性のほくろなのか悪性黒色腫なのか」について、AIと皮膚科医で診断率を比較しました。
AIには大量の画像を学習させ、ディープラーニングによって画像診断トレーニングを施しました。
皮膚科医は臨床経験5年以上が5割、2~5年が2割、2年未満が3割でした。(ちょっと経験不足な感はありますね。。)
①ダーモスコピー画像のみ
②ダーモスコピー画像+臨床情報・皮膚画像 (より実際の臨床現場に近い状態)
の2通りについて、画像診断テストを両者に受けてもらいました。
結果
①・②いずれにおいても、ROC曲線(感度と特異度の関係をプロットした曲線 この面積が広ければ広いほど「正確な診断」が可能)はAIのほうが勝っていました。
つまり今回の研究では、AIは皮膚科医よりも「正確な診断」ができたということです。
詳しい研究デザインや結果については原著論文を参照して下さい。
無料で閲覧できます。
この論文を読んだ感想
医師は「10年で1人前」とよく言われるので、今回AIと対決した皮膚科医は少し経験不足な印象はあります。
経験年数10年以上の医師だけを集める、悪性黒色腫のエキスパートを集める、などすれば結果は違ったかもしれません。
しかし医師を1人前に育成するのも多大な時間やコストがかかりますから、一度覚えこませれば半永久的に(しかも休みもなく!)診断し続けることができるAIの有用性は明らかでしょう。
もちろん今回はほくろと悪性黒色腫を比べただけであって、他の疾患ではその勝敗は分かりません。
しかも研究には前提条件がたくさんあり、臨床現場で必ずしもその前提を満たすとは限りません。
つまり今回の研究結果がそっくりそのまま、実際の臨床現場で適用されるとは限りません。
しかし大事なことは「AIに診断させる」というトレンドがあること、そしてその能力はある一定条件下で「人間の医師をすでに凌駕しつつある」ということです。
私たち医師はその現実を受け止めなければいけません。
■診断学はAIがもっとも得意とする分野
AIには得意・不得意があります。
決められた答えの中から経験的・統計的にもっともそれらしいものを導き出すのは、AIがもっとも得意とする分野のひとつです。
そしてそれって・・・まさしく診断学なんです。
診断学とは、与えられた条件(患者背景や現病歴、検査結果)から自分の知識を絞り出し、決められた枠組み(たくさんある疾患名)の中からもっとも適切なものを抽出する営みです。
つまり、診断学はAIの大好物なんです。
■医師とAI まとめ
糖尿病網膜症の診断や、全身麻酔ロボットなど、少しずつAIは私たち医師の仕事領域へ入り込んできています。
今回の論文も同様であり、ひとつまたエビデンスが加わったことになります。
10年後・20年後にはたして今と同じように私たちは医師として仕事ができるのか。
とくにまだ若い医師・医学生は、ぼんやりとでも未来を想像しておく必要があります。
医者が負け組になる時代
専門科の選択については、別記事でも議論しています。
専門科をまだ選んでいない、医学生・初期研修医たちにとってはとくに役立つと思います。
この論文が出るよりも前に書いた記事ですが、皮膚科についてはすでに予見していますね。
現役医師がおすすめする/しない、専門科の選択
医学部合格・医師を目指す方たちは、医師という仕事に将来性がないと思われたかもしれません。
AIが奪うのはありとあらゆる仕事ですが、医師は依然として魅力の多い職業だと思います。
こちらの記事が参考になります↓