眼科医が答える「LASIK (レーシック)ってどうなの?」


知り合った人に「眼科医です」と言うと、かなり高い確率(経験的には80%くらい!?!?)で「レーシックってどうなんですか?」と聞かれます

実は眼科医の中でもレーシックなどの屈折矯正をきちんと学んでおらず、一般の方と同様に盲目的に毛嫌いしている人もたまに見かけます。

眼科医の考えるレーシックを、この記事できちんと考えてみたいと思います。

■レーシック手術とは

レーシック手術の適応疾患は複数ありますが、ここでは大多数を占める「近視を治す」レーシックについて述べます。

機械の改良などに伴い多少の術式の変遷はあるものの、基本的なコンセプトとしては「角膜を薄く削る」ことにより近視を治します

角膜は目において眼鏡のレンズと同じような働きをします。
つまり「分厚いレンズを削って、薄いレンズに変える」というのがレーシック手術の本質です。

手術の行程をシンプルに示すと、この3段階です。

①フラップ作成

②レーザー照射 (角膜を薄くする)

③フラップを戻す

現在ではプログラミングされたレーザー照射により、切開は細かく制御されています。

■世界におけるレーシック手術件数

日本の件数

(西日本新聞より)

ドイツの件数

(Statistiaより)

アメリカの件数

(GRAND VIEW RESEARCHより)

こうやって見てみると分かりますが、レーシックの件数の推移は日本だけが明らかにおかしいです。
世界で広く受け入れられているレーシック手術ですが、日本でのみ激減しています。

■なぜ日本でレーシックは激減したか

理由① 集団感染事件


激減した理由ですが、東京の銀座眼科で起こった集団感染が最大の原因とされています。
利益を追求して手術器具の滅菌をきちんと行わなかったり使い回したりしたために数十人の患者に集団感染を起こしました。

これがメディアでセンセーショナルに取り上げられ「レーシック=危険」という短絡的な回路が世間で形成されました。
ただこの集団感染の経緯を理解すれば分かる通り、この事件はレーシック手術が危険だから起きたのではなく、衛生管理がずさんだったために起きたわけです。

「レーシック=危険」ではなく「ずさんな衛生管理=危険」という論理展開になるはずが、話が挿げ替えられてしまいました
キーワードのみによる表層的・短絡的な理解」は現代の大きな問題ですが、レーシックもその餌食となりました。

理由② 美容外科によるずさんな手術


もうひとつの大きな原因は、利益ばかりを追求した美容外科です。
屈折矯正を専門にしない美容外科が、高い手術料目当てにずさんな手術を繰り返したことで、レーシックはその評判を落としました。

レーシックは自由診療ですから、国が値段を決める保険診療と違って定価がありません。
医療機関の言い値で値段を決めることができるため、価格設定次第で自由診療は「ドル箱」になるのです。

レーシックには適応があります。レーシックをやってもいい眼と、やってはいけない(≒やると危険な)眼があります。

私も外来で経験がありますが、レーシックすべきでない眼に対して無理して手術したために、あとあと大きな後遺症を残した人がいます
また術後の度数がきちんと合っておらず(過矯正)、眼精疲労を強く訴える人もいます。

美容外科のレーシックは、クリニックにもよるんでしょうが、眼科医が仰天するような無茶苦茶なことをしていたところもあります。

レーシック術後にトラブルが起こる症例の大半は、こうした「レーシックすべきでない眼にレーシックをしてしまった場合」です。

理由③ 市民権を得た眼鏡

おしゃれな眼鏡が流行したからだ、と主張する人もいます。
それはたしかにそうで、近視を矯正する手段は増えました。

眼鏡はより身近になり、低いコストでも一人で何本も持てるようになりました。
眼鏡への抵抗感は、近年ぐっと少なくなってきました。

格安眼鏡店の功罪 眼科医の考える長所と短所

一方でレーシックも日々進化しています。
専門的なので詳細は省きますが、切開創が小さくなったり、レーザーを個々の患者の角膜形状に合わせてより細かく正確に照射できるようになったりと、どんどん改良されていっています。

レーシックの衰退理由まとめ

結局のところ理由①・②はともに、安全性を無視して金儲けに走った一部の人々の仕業だということです。
今となっては、そうした悪質なレーシッククリニックは駆逐されました。残っているのは屈折矯正を得意とする、眼科専門医のクリニック・病院だけです。

世界の多くの研究でレーシックの満足度は非常に高い(95%程度)ことが示されているにもかかわらず、世界中で当たり前のように行われているにもかかわらず、日本だけが悪い意味でガラパゴス化しているのは残念なことです。
もちろん適応があるし、合併症も当然起こりうるので全員に薦めるわけにはいきません。

しかし、レーシックで満足できるはずの人からその選択肢が最初から消えてしまうのは、医学の進歩に逆行しており大変もったいないことです。
国民のメディアリテラシーの低さも感じずにはいられません。
正しい理解・正しい知識は、力です。

■レーシックの合併症

一方で、レーシックはメリットしかない夢の治療ではありません
すべての医療行為にはメリット・デメリットが必ず存在します。
合併症のない治療はありえません。
医学・医療を万能の神と考えるのは誤りです。

レーシックも例外ではなく、いい点はもちろんのこと悪い点についても理解しておく必要があります。

ドライアイ

レーザーで角膜を切開しますが、その際に角膜の神経も切らなければいけません。
角膜の神経は涙の分泌を促すため、それが損傷してしまうと涙が出にくくなります。
したがってレーシック後はドライアイの頻度が高まります

近年は術式の発達により切開範囲が狭くなってきています。
切開範囲が狭ければ、切られてしまう神経も少なくなります。

また1年ほどすると神経は回復してくるので、後々まで問題になることは多くありません。

ハロー・グレア


とくに夜間に光がにじんだりぼやけたりして見えることがあります。

角膜を切開する以上は光学的にはこれらをゼロにすることはできず、夜間に繊細な作業をする人にはレーシックは向いていないでしょう。

一方で慣れて気にならなくなる、という人もけっこういます。
人間の脳は便利にできていて、最初は違和感を感じても、それがずっと続いているとだんだん慣れてきます。

近視の戻り

レーシック後、若干近視が戻ってしまうことが統計的に知られています。
近くの作業ばかりを続けていると(現代ではみなさんそうだと思います)眼も近くが見えるように頑張って順応しようとしますから、近視寄りに戻ろうという力が働くことは直感的に理解できると思います。

裸眼視力が若干落ちてしまいますが、別の捉え方をすると老眼が軽くなるとも言えます。
ものは言いようですね。
またその程度は、イギリスの論文では18年間で-0.54Dと、さほど有意な変化ではありませんでした。

過矯正

近視を直し過ぎて、遠視になることです。
過去に美容外科などの眼科専門医でない施設でレーシックを受けた人の中にはちらほら見かけます。
術後の眼精疲労も、過矯正がけっこうな割合を占めるのではないかと思っています。

ただ現在ではそうしたいい加減なクリニックは淘汰されており、きちんとした屈折矯正専門医に施術をしてもらえば問題になることは少ないです。
また近視が少し戻ることにより、軽い過矯正であればむしろ長期的には遠視が相殺されていい具合になる可能性も。
本末転倒ですが、眼鏡をかければ過矯正は正常化することもできます。

切開部位の感染

切開した部分に微生物が入りこんでしまうと、そこに感染症を引き起こします。
コンタクトレンズの記事でも示したように眼科領域においては感染症は要注意です。
治療が遅れてしまうとうまく治癒しても傷跡が残り一生視力が出にくくなる可能性があります

また重症の感染症であれば、角膜が溶けて孔が空いたり、網膜など眼の奥へと進んで失明に至ることもあります

術後点眼をきっちり行っていれば極めてまれですが、それでも0%にはできません。
医療行為を受ける以上は、リスクはゼロにはなりません
ふだん何気なく飲んでいる風邪薬すら、起こりうる合併症は重症・軽症含めて星の数ほどあります。

その他にも言い出したらキリがないんですが、頻度の高いものや重要度の高いものといえばこのあたりでしょう。

■眼科医はレーシック手術をしない?

「眼科医はレーシックをしないじゃないか、だからレーシックはアヤシイ」という主張もよく見かけます。
一理はありますが、これを鵜呑みにするのもどうかと思います。

眼科医にとっての視力は「矯正視力(めがね視力)」


眼科医は眼鏡をかけて視力がいいのなら、正常だと考えるんです。
眼科医にとっては矯正視力(めがねをかけたときの視力)が最重要です。

Aさんは視力が裸眼で0.1、眼鏡で1.0
Bさんは視力が裸眼で0.6、眼鏡で0.8

の場合、眼科医はBさんのほうが視力が悪いと考えるのです。
ここに一般の方との大きなギャップがあり、上のような主張がなされるのです。。

ですから正確には「眼科医にとっては近視は病気ではない健康な眼。健康な眼にわざわざレーザーで切開を入れる必要はない」というのが眼科医の考えです。
病気でないのに治療をする必要がありませんから、眼科医でレーシックをしたいと思う人はほとんどいないわけです。

眼鏡をかけたら見える?じゃあそれでいーじゃん、健康! と眼科医は考えるのです。
一部の病的近視を除き、眼科医にとって近視は正常の範疇なんです。

眼科医にとって見え方の質は重要

眼科医にとっては、眼と手は商売道具です。
顕微鏡を覗き込み、小さな病変も見逃さない精緻な観察が必要です。

手術では、ミリ単位の操作を要求されます。
手術の合併症を少しでも減らすため、細かい術野の変化にも敏感に気付かなければいけません

また、眼科の診察室って暗いですよね。
暗いのにはもちろんいくつか理由があるんですが、要するに暗い方が観察がしやすいんです。
部屋が暗い方が、病変を見逃しにくくなります。

ここでピンとくる方もいると思いますが、レーシック後に必発の合併症である「ハロー」「グレア」は夜間に目立ちます

つまり、レーシックをすると暗い環境での見え方の質(QOV=Quality of Vision)が下がります
暗室で細かい観察を行う眼科医は、もっともレーシックに不向きな職業なのです。

ですから、眼科医がレーシックをしないからといって、ただちにレーシックが眉唾とはなりません。レーシックをしたいと眼科医が考えても、仕事の内容的に相性が悪いのです。

■レーシックの適応:どんな人に向いている/向いていないのか

向いている人

すべての医療行為に合併症はつきものです。ゼロにすることはできません。
ではレーシックが向いているのは、どんな人なのでしょうか。

→簡単に言えば「眼鏡は嫌、裸眼で世界を見たい」という欲求の強い人でしょう。
夜間の見え方やドライアイなど、若干見え方の質は下がります
しかしそれでも、眼鏡から解放され裸眼で世界を見たい、という人がよい適応になります。

向いていない人

一方、強い近視(目安としては、だいたい-6.0D以上)は不適です。
レーシックは角膜を薄くすることで近視を緩める手術です。
近視が強すぎると、角膜をかなり薄くしなければならなくなります。しかし角膜が薄すぎると術後に剛性が保てない(薄すぎて物理的に弱くなる)などの問題が生じます。
専門的には「角膜拡張症=エクタジア=ectasia」と呼びます。

またアトピー性皮膚炎の方も注意が必要です。
アトピー性皮膚炎の方は上述のエクタジアのリスクが高まります。
あるいは「円錐角膜」というエクタジアに似た状態に、レーシック前からなっている人もいます。

術前から角膜が突出=円錐角膜
術後から角膜が突出=エクタジア

という理解で結構です。


(All About Visionより)

いずれにしても、きちんとしたクリニックであれば術前検査で不適応であることはきちんと判ります
近年は角膜形状解析装置が発展し、レーシックを含む屈折矯正手術は術前・術後検査ともによりクオリティが高まっています

■レーシックの理解が深まる書籍

もしももう少し深くレーシックについて学びたいという方は、こちらのホリエモンの本がオススメです。
Kindleでしか読めないのが残念ですが、実際にレーシック手術を受けた堀江貴文氏が本を書いています。
ホリエモンは好き嫌いが分かれますが、私はめちゃくちゃ尊敬しています。
とにかく洞察力が鋭く、本質的なものの見方をするからです。

彼は眼の専門家ではないですが、一般的な目線から深くレーシックについて考察しています。
また新たな流行であるICL(後日追記予定)についても詳しく述べられています。

レーシックは万人がすべき治療だとは思いませんが、不当に埋もれてしまうにはもったいない、世界では当たり前の治療方法であることも事実なんです。
それが、本当にわかりやすく・そして鋭く洞察されている書籍です。
賢い人の文章は、読んでいて本当にタメになります。
Amazonのレビューも大変参考になります。


【「め」は大事】 堀江貴文

■まとめ

レーシックは世界的に普及しており、日本だけがガラパゴスな状況です。
低いメディアリテラシーや一部の金儲け主義のせいで日本では評判を落としています。
が、多少の「夜間のにじみ」「ドライアイ」が許容できる人にとっては、眼鏡や近視から解放される、極めて満足度の高い手術です。
世界で当たり前の技術が、日本でだけ淘汰されるって不思議です。
レーシックに限らず、いろんな分野で同じような現象は目にしますが・・・。

また現在では悪質なクリニックは淘汰されており、患者としてはクリニックを選びやすくなってきています。
無知ほど損なことはありません知識は力です。
正しい知識を得て、しないという選択をするのは個人の自由です。
しかし知識がないままに食わず嫌いをするのは、ただの機会損失になります。

非眼科医なのにレーシックに関してそこを完璧に理解しているあたり、ホリエモンってすごいなあと素直に思います。。


眼科医が答える「LASIK (レーシック)ってどうなの?」」への4件のフィードバック

  1. あつ

    koala様、初めまして。
    クレジットカードや資産運用のお話にも興味があり、こちらのHPをよく拝見させていただいております。
    現在ICLの手術を検討中でお話を伺いたくコメントさせていただきました。

     •30代男
     •20年ほど最強度近視
     •常時コンタクトレンズ着用
     •レーシックは角膜の厚さ不足と矯正視力の大きさのため手術不可
     •-10.0Dほどのコンタクト着用で0.7程の視力。ただし体調によっては1.2程出るときもあり
     •コンタクトレンズはネットで買っており(処方箋なし)、眼科へは5年程行っておりません

    上記のように現在は-10.0Dのコンタクトレンズで0.7程の視力が出て落ち着いておりますが、それ以前は度数を高くするとはじめは1.5程見えるのですが、また0.7程に落ちていき、またさらに度数を上げると1.5程見え、時間の経過と共にまた0.7•••のサイクルを繰り返しており、同様のサイクルをくり返すのであれば、日常生活でさほど困っていないこともあり、半ば諦めて-10.0Dのコンタクトレンズで0.7の視力の生活を送っております。
    (なぜか0.7から下がることはありません)

    しかしながら、視力の悪い生活をずっと送ってきたため、1.5程度の視力が常時ある生活に憧れます。
    そこでお伺いしたいのですが、もしICLの手術を受け、仮に1.5程の視力が出た場合、これまでのように時間が経つと0.7程の視力に戻る可能性は高いのでしょうか?

    もちろん、個人差や体質、生活環境などがあり一概に言えない部分も大きいことは重々承知しておりますが、上記の項目から考えられる見解を一般論としてお聞かせ願えればと思います。
    お忙しいとこと申し訳ございません。
    何卒、宜しくお願い致します。

    返信
    1. Dr. Koala 投稿作成者

      コメントどうもありがとうございます。
      よく見て頂いているということで、うれしいかぎりです。

      ICLは芸能人でも手術を受けた人がいて昨今話題ですね。
      私の専門分野はICLではないので、論文など文献を調べてみます。
      (すみませんが少しお時間を頂くと思います)

      また今回頂いた相談は他の方にも大いに参考になると思うのですが、このコメントをそのまま記事に転載してもよろしいでしょうか。
      ニックネームとコメントのみを使用し、コメントに答える形で新しく記事を起こしたいなと考えています。

      返信
  2. あつ

    Koala様
    こんばんは。
    大変申し訳ございません。
    6/29にこちらにコメントのお返事いただいておりましたが、気づいておりませんでした。
    別途お送りいただきましたメールにて今確認させていただきました。
    投稿いたしましたコメントですが、記事の方へ転用いただいても問題ございません。
    わざわざご確認のご連絡いただきましてありがとうございます。
    お仕事でお忙しい中恐縮ですが、記事の方を楽しみにしております。

    また、眼科のお話に限らず、マイレージのお話、クレジットカードのお話も楽しみにしています。

    返信
    1. Dr. Koala 投稿作成者

      ご返答ありがとうございます。
      いい加減なことは書けないので、いろいろと文献をあたってみます。

      他の記事も、ぜひ今後もご愛顧ください!

      返信

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