現役医師がおすすめする/しない、専門科の選択


専門科の選択は、医師としての人生を決定づける非常に大きな決断です。
おそらく医学部受験に次いで、自分の方向性を左右する選択になります。

各専門科には特徴があり、学生時代には知らなかったけれども医師になってから気が付いたこともたくさんあります。
それぞれにやりたいことは違いますが、ある程度各科の位置づけを知っておくことは、進路選択に役立ちます

たとえば他人と話すのが苦手な医学生が、内科を選ぶのは微妙かもしれません。
アフター5に習い事をしてのんびり過ごしたいという人は、いくら心臓が好きでも心臓外科は向いていないかもしれません。

ここでは、現役医師としておすすめする科・おすすめしない科を含め、専門科選択のヒントとなるべくいろいろと私見を書いてみました。

■前提:AIは人間の仕事を奪う

イギリスの名門、オックスフォード大学の発表した「10年後になくなる仕事」は大きな波紋を呼びました。
AIの発達に伴い、人間の仕事は多かれ少なかれ機械に代替されます

セルフレジになればパートで働くレジのおばちゃんは要りません。
駅の改札だって、昔は人間が切符を1枚1枚チェックしていましたが、自動改札が導入されその仕事はなくなりました。

HISのプロデュースする「変なホテル」は、ホテルスタッフの多くを機械化することに成功しました。

今後自動運転が完全実用化されれば、トラックやタクシーの運転手は必要なくなるでしょう。

機械は反復作業をとくに得意としていることから、これまで勝ち組とされていたホワイトカラーの地位を脅かす可能性があります。
実際、銀行業はかつて就職の花形でしたが、フィンテックに押され改革を余儀なくされています。

銀行の窓口へ、久しぶりに行ってみた

AIは24時間疲れることなく働き続けることができ、一度運用が軌道に乗ってしまえば人間のような人件費(つまり固定費)はあまり発生しません
経営者としても、賃金も要らない文句も言わないAIでも仕事が成り立つならば、そちらに移行したいと思うはずです。

■医療の世界もAIを無視できない

医療の世界も例外ではありません。
機械的な単純作業から順番に、AIに置き換わっていきます。

診断学はとくにAIと相性がよいです。
AIは知識を無限に蓄えることができ、その引き出しを自由自在に操ることができます。ディープラーニングによって機械自体も学習することができるようになりつつあります。

たとえば眼科の分野では、糖尿病網膜症の画像診断をするAIシステムが2018年4月にアメリカで認可されました。
感度・特異度ともに90%弱です。このシステムの普及に伴い、検診読影の仕事は減っていくでしょう。

また麻酔科分野では衝撃的な出来事が近年起きました。
ジョンソンエンドジョンソンが「Sedasys」と呼ばれる医療用麻酔ロボットを米国で発売したのです。
これにより麻酔科医の1/10のコストで、AIが麻酔管理をできるようなりました。

・・・しかし結局は、米国麻酔医学会などが猛反対し販売中止を余儀なくされました。
自分たちの仕事が根こそぎ奪われてしまうわけですから当たり前ですね。

結局今回は麻酔科医の仕事が奪われずにすみましたが、大事なことは「もうすでに、麻酔管理をできるレベルにまでAIが成長している」ということです。機械的・反復的な作業を行う知的労働者は、今後AIと真っ向からぶつかることになります
今まだ医学生・研修医の人たちは今後、その専門科で何十年もご飯を食べて行かなければいけません
逆に言うと、これから先何十年後も価値のある科を選ばないと、未来はハードモードになる可能性が高いということです。

■おすすめしない科

以上を踏まえると、AIに食われやすい科というのはおすすめできないということになります。
画像診断・読影はすでに実用化されつつあることから需要の先細りが予想されます。

放射線診断科・病理科

つまり「放射線診断科」や「病理科」は一番初めにAIの洗礼を受けます。AIの一番苦手な対人コミュニケーションもありませんから、見通しは最も暗いと言わざるをえません。
ちなみにこれらの科の場合は途上国の医師(遠隔診療)とも競争しなければいけません。アメリカではすでに放射線読影の一部をインドに委託しており、アメリカ人より安い対価でインド人医師に画像診断を外注しています。しかも時差のおかげで当日夕にオーダーした検査が翌朝すでに読影されている、といった副次的な効果もあるようで広まりを見せています。

手術をしない皮膚科

「皮膚科」も皮疹のsnap diagnosis (写真を一目見て診断すること)が大きな意味を持つことから、AIとの親和性が高いです。手術をしない、専門性もない外来だけの皮膚科医はリスキーと思われます。AIではないですが、「ヒフミル」というアプリでは皮膚科医による遠隔診療サービスがすでにあります。

追記:とうとうこんな論文が出ました↓

AIが皮膚科医を超えた? 医師もAIに職を奪われるかも

一般内科

「内科」は患者の裾野が非常に大きいため食いっぱぐれる可能性は低そうですが、一般的な初診外来はAIの大好物になりえます

ATMのような端末に、症状の部位・性状などを問診形式で入力すると、AIはデータベースを参照し適切に漏れなく鑑別診断を挙げる。鑑別に応じた採血や画像検査などのオーダーがなされ、検査を受ける。しばらくするとAIが結果を解釈し、経過観察や専門医受診などの指示が出る。・・・技術的には、正直もう既に実用可能だと思いませんか。
今は法規制や国民の機械診療への嫌悪感からまだ広がってはいませんが、今後国は医療費の削減にさらに本腰を入れます。そしてもしもAIがさらに進歩して「人間の医師よりAIのほうが診断能力がはるかに高い」ということが示されたとしたら、若い世代から順番にAI診療への抵抗感がなくなっていくとは思いませんか。

iPhoneが発売された当初、多くの人はiPhoneを鼻で笑いました。しかし何年もたった今ではみんな当たり前のように使っています。
「内科初診ロボ」が広まったとき、内科初診担当外来は大幅に縮小するでしょう

■おすすめする科

当然、AIに食われにくい科が推奨されます。

精神科

「精神科」は人の心を扱う科です。心の反応は個人によって千差万別で、単純化することはできませんAIがもっとも苦手というのは、容易に想像できると思います。

手術のある科

「手術のある科」もAIの苦手な分野です。人間には解剖学的な個人差があり、手術手技には臨機応変な対応が求められます。単純な反復作業の対極にあるため、AI化は遅れるでしょう。ありとあらゆる合併症が手術の際には起こりえますが、AIが経験豊富な術者以上の対応をすぐにできるようになるとは、いまのところは思えません。少なくとも「おすすめしない科」よりかは生き残ることができるはずです。

■ワークライフバランス

AIを軸に話を進めてきました。
しかしそれとは別に大前提として、医師は医師である前に人間です。やりがいやAI耐性も大事ですが、自分自身のワークライフバランスも無視することはできません

臨床に従事して思うことは、やっぱり当直はしんどいということです。
20代の研修医時代ですらそれですから、30代・40代の勤務医の負担感はいかほどでしょうか。
激務で家に帰れない、子供が顔を覚えてくれないという環境はまともでしょうか。

近年の「働き方改革」によって医師の労働状況についても漸く少しずつ行政のメスが入るようになってきました。
今後シフト制の普及や医療機関の集約化により労働環境が改善される可能性はありますが、やはりワークライフバランスを保ちやすい科・保ちにくい科はあります

「door to baloon timeが云々・・・」といっている循環器内科で、時間外にしっかり休みを取るのは今後も難しいかもしれません。

「発症4.5時間以内ならt-PAを!」といっている脳卒中内科も同様でしょう。

消化管穿孔の患者を、夜中に消化器外科医が放っておくわけにもいきません。

そういう意味ではマイナー外科は緊急性が腹部外科や胸部外科に劣るため、休みは確保しやすいと思われます。
主治医制という概念がないという意味で、麻酔科も働きやすさでは他科に勝ります。代えのきかない主治医制はなかなかしんどいです。看護師の労働環境が守られているのは、ある意味で「代えのきく」シフト制なのが一因です。
主治医は1人しかいませんが、担当看護師Aは担当看護師Bであっても大きな問題はないわけです。

また女性比率の高い科はワークライフバランスに優れることが多いです。
出産・育児と両立しやすいからこそ女医が専門科として選びやすいですし、女性が多いということは職場自体も一時的な休職に慣れているということです。

■専門科の選択 まとめ

今後何十年も続けていく仕事ですから、自分のやりたい専門科を選ぶのが一番です。
しかし理想だけでは生活していくことはできません。夢見るバンドマンも、いつか夢破れた時には現実的な仕事を探さなければいけません。
職業・仕事とは「生きていくための糧」であり、やりがいを大事にしながらも将来の見通しについてある程度打算的になる必要もあります

未来はだれにも分かりませんし、なにか別のエポックメーキングが起こるかもしれません。
個人的な意見にすぎませんが、この記事が迷える若き医学生・研修医にとって少しでも役に立てばうれしいです。
地方の貧乏な家出身の私の身の周りには、医師は一人もおらずこういう話をしてくれる人も、相談に乗ってくれる人もいなかったので・・・。

ではこの記事の結論です。

<おすすめしない科>

「放射線診断科」「病理科」「手術しない皮膚科」「一般内科」

<おすすめする科>

「精神科」「マイナー外科」

※注:m3.comでも専門科選択についてかなり盛り上がっていました。(というかこの記事を書こうと思ったのはm3の記事を見たからです)
いろいろな医師の意見が聞けますから、私はふだんから大いに参考にしています。

m3.com 医師向けのおすすめポータルサイト

※注:この記事はハードで緊急呼び出し・手術の多い科を批判したいわけでは決してありません。そんな科には行くな、とも少しも思いません。
眼科だって、病院によっては毎日のように緊急手術があります。 同じ科でも、病院によって労働環境は大きく異なるのも事実です。
日本の医療を支えるそうした同僚ドクター達に私も日々お世話になっていますし、心の底から尊敬しています。

しかしAIの進歩であったり、日本の特殊で歪曲した労働環境も同時に知っておくべきだと思っています。たとえば海外の外科医は十何時間も通しで手術をしたりしません。手術が部分部分にパート化され、パイロットと同じように労働環境が守られています。
それを踏まえたうえで、若い人たちには自分の進路について熟考してほしいなと思います。私にこんな話をしてくれる人はいなかったので。

医師のキャリアパスに関しては、こういう本も出ています。
医学生・若手医師はとくに参考になると思います。

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