だいぶニッチな記事ですが、眼科をローテーションしている初期研修医や、眼科を専攻している後期研修医に最適な教科書を厳選しました。
実際に買ったり、立ち読みしたり、友人に見せてもらったりと、いろいろと教材や参考書については研究していますが、その中でも初学者におすすめのものをピックアップしています。
適切な教科書を使えば、効率よく知識を吸収することができます。
眼科分野でこういった若手向けの教科書のレビューは少ないので、参考になると思います。
ちなみに、初期研修の自由選択期間をどう使うべきか迷っている方は、ぜひ以下のnoteをご覧ください。
疑問が氷解すると思います。
>>>眼科志望の初期研修医/医学生のための、自由選択期間の使い道ガイド!
■外来診療の万能書 まずはこれ
「メディカルオフサルモロジー 眼薬物治療のすべて」
眼科専門医試験対策でおなじみのクオリファイシリーズですが、本書がシリーズ内でもっとも秀逸です。
主要な疾患に対して、病因/病態・症状・所見はもちろんのこと、エビデンスや治療方針についてもきっちりまとまっています。
とくに治療の項では具体的な投与方法やその後の管理の仕方まできちんと書いてあるので、外来をやり始めたころはとくに重宝していました。
全分野が1冊にまとまっているのも、使いやすさを高めています。
「外来や予診が始まった、どどどうしよう!!」という人には、一番におすすめする万能本です。
メディカルオフサルモロジー 眼薬物治療のすべて (専門医のための眼科診療クオリファイ 15)
■診察技術・スキル
「眼科診察クローズアップ」
眼科を回り始めて最初に躓くのは診察です。
この記事を読んでいる人はまがりなりにもある程度初期研修でいろいろな科をローテしてきたはずですから、一通りの全身診察は要領よくつつがなくできるようになっているはずです。
しかし眼科の診察はその特殊性ゆえに、今まで築いてきたスキルは一旦白紙に戻ってしまいます。
打診も聴診も一切しなくなり、一番の相棒は細隙灯顕微鏡や眼底レンズになります。
眼科を回り始めてすぐのころ、私にとって一番つらかったのは「診察スキルが未熟⇒患者さんに信頼されない」ことでした。
2年近く研修を頑張って、救急対応も形になってきて少し自信がついてきた初期研修生活が、再び振り出しに戻った気分でした。
また眼科の診察手技は習うより慣れろ的なところが強く、あまり体系立ってそのテクニックを伝授してくれる本はありません(私も苦労してこの本を探し出しました)
上司も、頭で考えてというよりは手が覚えて診察できるようになってきた人ばかりです。
眼科医にはありがちですが、 間違った技術・知識が知らない間に定着してしまうことに気を付けないといけません。
眼科はあまりチーム医療をしない個人プレーの科で、お互いに診察スキルや診療内容を評価する機会はほとんどないからです。
しかし理論を知れば上達が早まるのは当たり前です。ただ闇雲に上級医の猿真似をするよりも、ずっと効率よく腕を磨くことができます。
自分が得た所見・・・たとえば同じ「角膜後面沈着物(KP)」でも、さまざまな種類や特徴があります。それを豊富なアトラスとともにわかりやすく分類してくれているため、「正しい診察手技を身に付け、正しい所見をとり、正しく解釈できる」ようになります。
診察技術は、いわばゴルフやテニスにおけるフォームです。
一度身に付くとなかなか修正できませんから、最初に正しいフォームを覚えることが大事です。
疾患の知識はいくらでも後から足せます。フォームを覚えるのは最初が肝心で、正しく身に付けることができればその後は苦労せずにどんどん成長していけます。
ユニークな本書も、眼科初学者に必携と思います。
■角膜・結膜
「角膜疾患 外来でこう診てこう治せ」
京都府立医大といえば角膜治療のメッカで、東の東京歯科大学などと並び角膜の研究・臨床ともに日本でも最も有名な大学の一つです。
上で紹介した「メディカルオフサルモロジー」に通じるものがありますが、本書も豊富なアトラスとともに具体的な治療戦略が書かれているところが素晴らしいです。
見開きで閲覧性に優れており、使い勝手は抜群です。
Amazonのレビューは変なのがついていますが、角膜・結膜などのオキュラーサーフェス疾患の本の中では本書が明らかにベストです。
もっとアカデミックに追求したい方は「眼科臨床エキスパート オキュラーサーフェス疾患」あたりが優れていますが、初学者の1冊としては本書に軍配が上がります。
■緑内障
「緑内障診療クローズアップ」
「クローズアップ」シリーズはシェーマや写真が豊富で、内容も過度に深堀しすぎないため初学者にはかなりおすすめできるシリーズです。
緑内障分野もたくさん本が出ていますが、もっとも効率よく・分かりやすく知識を吸収できるのは本書でしょう。
基本的なところからバルベルトなど発展的な手術についても書いてあり、SLTのレーザー設定や打ち方など実践的なところもしっかりカバーされています。
ハンフリー視野検査の解釈は早い段階で身につけておくべきですが、細かいインデックスやパラメータの意味を分かっているでしょうか。無理のない表現で、着目すべきポイントを要約してくれています。
小児緑内障はなかなか難しいですが、分類や臨床的特徴が分かりやすくまとまっています。
また本書でとくに優れているのは、「おおよその経過」が書かれているところです。
どの治療をしたらどの程度の眼圧下降効果が得られるのか。またそれはどのくらい続くのか。
どの治療をしたら何に気をつけながら普段診察すればいいのか。
そういった、従来であれば経験値がものをいう、臨床上の「感覚」・「ものさし」を得ることができます。
何年分もの臨床経験を先回りできる点で、他書よりも抜きんでています。
■網膜
「網膜診療クローズアップ」
緑内障と同様に、疾患知識・疫学から、写真などの所見・エビデンスまで一通りのことが載っています。
まだ結論の出ていない治療方法の最新の議論もちょこっと載っていたりして、最新情報のキャッチアップも可能です。
なるべく見開きになるよう工夫されており、非常に使いやすい1冊です。
■ぶどう膜炎
「所見から考えるぶどう膜炎」
ぶどう膜炎に関してはこの本がずば抜けています。
ぶどう膜炎は分類学的に覚えても意味がありません。経過やさまざまな所見を手掛かりに鑑別診断をする、という内科的・症候学的なアプローチが必要だからです。
したがってタイトルの「所見から考える」という姿勢はぶどう膜炎の理解に極めて重要です。
そして本書では、たとえば静脈炎と動脈炎の区別であったり、肉芽腫性変化が起こる原因であったり、病態生理からきちんと理解することができます。
ぶどう膜炎にはたくさんの種類がありますが、理解することで無機質な暗記が必要なくなります。
たとえばトキソプラズマぶどう膜炎では硝子体混濁が強く出ますが、そんなことは覚えなくても考えれば分かるようになります。
急性網膜壊死=ARNで静脈ではなく動脈が炎症の主座になるのも当たり前です。
ベーチェット病では非発作期に跡形なく所見がなくなるのに、サルコイドーシスでは瘢痕が残るのだって、病態生理を考えれば当然の結果だと分かります。
病態の理解にここまでフォーカスした本はないので、ぶどう膜炎に関しては本書を強く勧めます。
また具体的な治療レジメンは、この本に載ってあるものもありますが不足があれば「メディカルオフサルモロジー」(「万能の1冊」として紹介しましたね)を参照しましょう。
■神経眼科
「神経眼科クローズアップ」
やはり使い勝手のいいクローズアップシリーズです。
神経眼科も内科のような鑑別診断が重要になってきますが、そうした症候学的アプローチが重視されています。
症候別のワークアップ、考えるべき疾患、その後の方針まで網羅されており、理解しにくくとっつきにくい神経眼科における初学書として最適です。
他の入門書は気難しい分類学ばかりに終始するものが多く、この本の存在は特別です。
神経眼科的検査の解釈にもしっかりページが割かれており、たとえばERGなどの一見難解な検査も臨床で活用できるレベルまで理解を引き上げることができます。
■小児眼科・斜視弱視
「ポイントマスター 小児眼科 弱視斜視外来ノート」
小児眼科も良本の少ないカテゴリーです。クオリファイシリーズを使用していましたが、正直いまいちです・・・。
同僚の話を聞いているとこの本がベストのようです。まだしっかり活用できていませんので、また書き足します。
(後日追記予定)
■眼科外来手技
「眼科外来処置・小手術クローズアップ」
眼科外来はちょっとした処置の多い科です。
結膜のちょっとした手術なら外来でささっとできてしまうし、各種レーザーなんかもしばしば経験します。
とくに初学者にとってはYAGレーザーによる後発白内障の後嚢切開術、糖尿病網膜症への汎網膜光凝固術(PRPC)あたりは最初にマスターすべき処置です。
また手術が満足にできないレベルでは、これら処置はけっこう楽しく、やりがいがあります。(研修医なりたてのころに、ルートキープや挿管が楽しいのと同じです)
うまくなればなるほど上級医も安心して任せてくれるようになるため、ますます経験が積めます。処置が一通りできるなら、ランクアップしてそろそろ手術もやってみるか、ということになりますから、処置を早くマスターするのは大きな意義があります。
本書ではレーザーのパワー設定やその理由、さまざまな処置のコツやトラブルシューティングが載っており、眼科診察のコツと同様になかなか体系化されていない技術を効率よく吸収することができます。
ひとりよがりで誤ったテクニックを身に付けないためにも、本書で技術を標準化しておくことも大事です。
■眼科の手術書
「眼手術学シリーズ」
眼科手術において最も内容的に優れるのはこのシリーズです。
手術では初心者には初心者の、上級者には上級者のつまづきポイントがあります。
なにかにつまづくたびにこの本を開きますが、何度読んでも新しい発見があり参考になります。
いろいろな手術書を持っていますが、結局すべてこのシリーズに回帰します。
「白内障」「緑内障」「網膜・硝子体」「眼瞼」「眼窩」「角膜・結膜・屈折矯正」・・・ちょっと重いですが、網羅性に優れすべてのレベルの術者・すべての分野においておすすめできます。
(※ただし、白内障と眼瞼については例外的に他にもおすすめの1冊があります。下記を参照してください。)
手術前のプランニング・術式の選択、術中操作の要点やコツ、合併症発生時の対策方法、難症例の注意点、術後管理で気をつけるべきポイントなど、周術期の重要ポイントはすべて載っているといっても過言ではありません。
白内障手術 初心者向け、おすすめの1冊
初学者が最初にマスターすべきは白内障手術です。
すべての手術の基本となり、また初めに壁にぶち当たるのも白内障手術です。
白内障に関しては、とくに手術初心者の場合には「白内障手術パーフェクトマスター」もおすすめです。
「眼手術学 白内障」よりも内容が丁寧で基礎的だからです。
膨大な量の連続写真に逐一解説(ココ大事!)が加えられており、またその動画もDVDとして付属していて、いつでもどこでも見ることができます。
実際の手術動画の写真に直接解説をつけてあるので、手術中に何をしているのか・何をすべきなのかが明確です。
ビギナーはしばしば、手術動画を観ても画面に映っているものが何なのかを理解できていません。
そんな状態で手術助手に入っても伸びしろは知れていますから、まずは手術を細かく理解することが大切です。
その点本書は、画像・映像を用いた説明に重きを置いてあり、手術のイメージがより掴みやすくなっています。
白内障手術の勉強をする場合、「眼手術学 白内障」ももちろんいいのですが、最初の1冊はこちらにしたほうがとっつきやすいようには思います。
発刊してから少し日が経っていますが、基本コンセプトは現在でも変わっておらず、内容的にはまったく問題なしです。
(後輩指導には今でもよくこの本を使用しています)
眼瞼手術書の決定版!
眼瞼手術に関しては、最高の1冊が出ました。
眼瞼を専門にするのでなければ、この1冊だけで十分です。
素晴らしい、の一言に尽きます。
皮膚の麻酔や切開から、眼瞼周囲の筋・解剖に至るまで、初歩的なこともわかりやすく解説されています。
この本のコンセプトは「0点から70点の手術にする」ですが、タイトルに偽りなし。
若手眼科医にもっとも有用な構成になっています。
これは著者が長年、大学病院で若手医師の指導をしてきた賜物でしょう。
初心者が陥りがちな罠、初心者がやりがちなミスへの十分な配慮が素晴らしいです。
また、本書が他の眼瞼手術書と決定的に違うのが、動画の部分です。
著者の鮮やかな手術動画だけでなく、眼科専攻医の未熟な動画もきちんと載っているのです。
そしてどこがいけないかを、動画の中で逐次解説してくれています。
切開がいまいちだったり、皮膚や筋を持つ場所がいまいちだったり、針の動かし方がいまいちだったり・・・初心者の手術はいろいろと未熟です。
しかしいまいちな操作があるたびにその都度、的確なアドバイスを加えてくれています。
「じゃあ、改善するためにどうすればいいの?」にきちんと答えてくれます。
失敗ほど勉強になるものはありません。
それに初心者が陥る失敗なんてだいたい誰でも同じですから、この構成は教育の本質を突いていると思います。
眼瞼手術はきちんと指導できる眼科医が少ないので私もいろいろ参考書を漁りましたが、この1冊だけで大丈夫。
眼瞼手術書の決定版です。
■医学英語
他科と同じように、眼科医も英語、とくに医学英語の力があるとさまざまな局面で非常に有利です。
英語力は医師としての将来に大きく影響を及ぼしますから、きちんと力をつけておきたいところです。
詳細は別記事をご覧ください。
【医学英語】医師におすすめの英語学習教材・勉強法 まとめ
■眼科のおすすめ教科書 まとめ
眼科の教科書はたくさん持っていますが、その中でも一押しの本をセレクトしました。
重視したポイントは
◎絵や写真が多く、初学者でも分かりやすい
・・・難解な説明は何度読んでも頭に入りません。知識がない人は、早い段階で分かりやすく系統立った本と出会うべきです。
◎職場や外来に気兼ねなく持っていけるレベルのサイズ・重量
・・・いくら内容が良くても、タウンページを持ち歩こうとは誰も思いません。小さすぎると読むのが大変ですが、携帯性が高いことはその本を愛用したくなるモチベーションになります。
◎実践的であること
・・・初学者は外来に処置に手術にてんてこまいです。慣れない手技、慣れないシステムに翻弄される中でも臨床現場でしっかり立ち振舞わなければいけません。すぐに身に付きすぐに実践ができる、臨床に直結したテクニックや知識に重点を絞るべきです。臨床につながらないアカデミックな話は、基本的なスキルが身に付いてからの方が効率がいいでしょう。
これら「一軍」の教科書は、今でも (まだまだ若造ですが) よく参考にします。ぜひ長く安心して使える良書を揃えて、早く一人前の眼科医になりましょう!
眼科は"視力"という患者本人にとっても分かりやすい客観的な治療指標があるので、うまくマネジメントできたときは非常に喜ばれ大きなやりがいのある科です。
おまけ 使い終えた教科書・医学書の活用法
眼科に進んだ医師は、今後ひたすらに眼だけを追いかける医師人生を送ることになります。
専門分化が進んだ現代の医学では、眼科医には全身疾患は手出し無用、むしろ内科や外科など該当の科にきちんと任せないと危険です。
そうなるといよいよ、眼科医にとって他科の教科書は重要度が下がります。
もちろん医師として最低限の知識は必要ですから、私が紹介したような一軍レベルの教科書は手元に残しておくべきです。
しかし医学生時代・初期研修医時代にたくさん買った医学書のうち、明らかに今後必要ないものもたくさんあるはずです。
そうした、本棚の肥やしになっている二度と読まない教科書は早めに処分しておくべきです。
処分するといっても、廃棄するのではありません。
上手に売れば、廃棄するはずだった医学書はすべてお金に変えることができます。
書き込みしていようが自分の印鑑を捺印していようが、心配は要りません。
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